海外でワインを造っている日本人が多いワイン産地は、何と言ってもアメリカのカリフォルニアです。カリフォルニアは世界第4位のワインの生産量を誇ります。そんな一大産地で素晴らしいワインを造る日本人醸造家を紹介します。
ナカイ・ヴィンヤード(Nakai Vinyard)/中井章恵(なかいあきよし)氏(カリフォルニア ソノマ)
中井章恵さんは1940年東京生まれ。彼は1964年に家族とともに移住したのがアメリカ・カリフォルニア州でした。果実酒作りの面白さからワイン造りを目指した中井さんはソノマのカレッジで栽培学を学びました。1980年にソノマのロシアン・リヴァー・ヴァレーに8haの土地を購入し、「ナカイ・ヴィンヤード」を設立しました。
中井さんは海外の日本人経営ワイナリーの先駆けです。なんでも最初に始めるのは大変ですよね。夢中になって努力し続けたことが、今のカリフォルニアでの日本人醸造家が増えたことにつながっているのだと思います。
ケンゾーエステイト(KENZO ESTATE)/辻本憲三(つじもとけんぞう)氏(カリフォルニア ナパ)
1940年奈良県生まれの辻本憲三さんはゲーム会社カプコンのCEOです。カプコンは誰でも一度はその名を聞いたことがあるのではないかと思われる「ストリートファイター」、「モンスターハンター」、「バイオハザード」といった人気ゲームを開発した会社です。1990年にカリフォルニア州ナパにあったカプコンの塩漬けの土地を個人で購入して、ケンゾー・エステートを設立しました。
しかし、最初から上手くいくわけではありません。そこでブドウ栽培の名人と呼ばれるデイヴィッド・アブリュー氏とワイン造りの女神と呼ばれるハイディ・パレット氏と手を組んで畑の土を掘り返して、最高の畑を作り直すことにしたそうです。その後、10年の歳月を経て「ナパの奇跡」と呼ぼれるほどの高品質のワインが出来上がりました。
高品質で生産量が少ないので、人気もあります。そのためか値段は高めです。なかなか手に入らないようです。この値段から考えると相当美味しいワインなんでしょうね。
ナカムラ・セラーズ(Nakamura Cellars)/中村倫久(なかむらのりひさ)氏(カリフォルニア ソノマ)
中村倫久(のりひさ)さんは1970年に東京で生まれました。慶應大学経済学部を卒業後、ホテル日航に就職しました。ホテルマンだった彼はサンフランシスコ赴任時代に、ワイナリー巡りに出かけ、ナパの景色とワインの美味しさに魅了されワイン造りを志します。会社を退職後、カリフォルニア大学デービス校で醸造を学びました。卒業後、「ナパ・ワイン・カンパニー(Napa Wine Company)」や「アーテッサ・ワイナリー(Artesa Winery)」での勤務を経て、2010年にナカムラ・セラーズを設立し、「ノリア(noria)」をリリースしました。
中村さんが目指すのは「和食に合うワイン」。カリフォルニアは非常に気候に恵まれていて、厚みのあるワイン作りには向いていますが、繊細なワイン造りは難しいといわれています。しかし彼は、寒暖の差が大きいソノマコーストという土地で、白ワイン用シャルドネと赤ワイン用ピノ・ノワールだけを使って、和食に合うワインを造り出しています。
「和食に合うワイン」を目指しているせいか、日本でも注目されていますね。春野菜とすっきりしたシャルドネは合うと思うので、ぜひ試してみたいですね。
フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー(Freeman Vinyard & Winery)/アキコ・フリーマンさん(カリフォルニア ソノマ)
アキコ・フリーマンさんは高校卒業後、交換留学生としてアメリカ・ニューヨーク市にあるマンハッタンヴィル・カレッジに入学して美術史を学びました。その後、スタンフォード大学でイタリア・ルネッサンス期の美術史の博士号を取得しました。卒業後はメトロポリタン美術館のエデュケーターとして活躍していました。ケン・フリーマンさんとの結婚後、夫の転勤でカリフォルニアへ移住し、週末ナパヴァレーのワイナリーめぐりを楽しんでいたそうです。
そんなワイン好きが高じてワイナリーを持つことが夫婦の夢になり、ブドウ畑や候補地を巡り、ソノマのロシアン・リヴァー・ヴァレーに土地を見つけて、2001年にワイナリーを設立しました。
しかし、ワイン造りは素人だったので、「テスタロッサ」でワインメーカーを務めていたエド・カーツマンさんをコンサルタントに迎えて、一からワイン造りを覚えていったそうです。
アキコ・フリーマンさんの造るワインの特徴は、エレガントで繊細であることです。目指していたのが、”ブルゴーニュのようなエレガントで繊細なワイン”であり、栽培するブドウ品種もピノ・オワールとシャルドネのみです。シャルドネはレモンのような酸味と涼やかさを感じさせるワインと言われています。また、大好きなピノ・ノワールはテロワールを反映した造りでタンニンはやわらかでクールな酸味と奥行きのある味わいが感じられるワインと言われています。
2015年4月にホワイトハウスで行われたオバマ大統領と安倍首相との公式晩餐会で「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」の「涼風シャルドネ」が振る舞われました。日本人醸造家の手によるワインがホワイトハウスで提供されたのは、初めてのことだったそうです。もちろん日米の首脳のことも考えられたとは思いますが、ホワイトハウスで提供されるものはアメリカを代表するものですので、その実力は本物ですね。カリフォルニアはアメリカを代表するワイン産地ですので、その中で選ばれたのはすごいことだと思います。全くの素人であったアキコ・フリーマンさんが夫のケンさんのサポートの元、ここまで評価されるワインを造るのは努力はもちろんですが、センスもあったのではないかと思います。いつか飲んでみたいですね。
シックス・クローヴズ(Six Cloves Wines)/平林園枝さん(カリフォルニア ソノマ)
平林園枝さんは、長野県大町市にあるりんご農家の長女として生まれました。英語やアメリカに興味があった彼女は、1998年にアメリカに行きシカゴで現地採用されて丸紅で働いていました。その後事務所がニューヨークに統括されたため、平林さんもニューヨークへ移りました。ニューヨークで公認会計士の勉強をしているときに、ワインに興味を持ち、カリフォルニア大学デービス校醸造学科に入学しました。
無事に卒業しましたが、力仕事の多いワイン造りでは、女性で華奢なことも大きなハンデになっていました。また、平林さんが理想とするワインはテロワールを反映したエレガントなワインでしたが、当時のカリフォルニアは樽香が強いオールドスタイルでした。
そんな中で20年ほど前からすでにビオディナミ農法を実施していた「リトライ」で学びました。「リトライ」で造られるナチュラルなワインは、高い評価を受けていたので、研修場所をそこに決めたそうです。その後「マサイアソン」でも研修し、2017年に自分のブランドを立ち上げる夢をかなえました。
ファースト・ヴィンテージである2017年は、「ナカイ・ヴィンヤード」のシャルドネを使い、ナパ・ヴァレーにある「メドロック・エイムズ」で委託醸造してワインを作りました。出来上がった「シックス・クローヴズ シャルドネ ナカイ・ヴィンヤード」はレモンの香りと繊細な酸味とフレッシュな果実味が感じられるそうです。
生産数はまだまだ少量ですが、きちんとテロワールが生きた、おいしいワインをつくりたいと思っています。
そう言う平林さんが、これからどんなワインを造っていくのか、楽しみですね。
マボロシ・ヴィンヤード(Maboroshi Vinyard)/私市友宏(さきいちともひろ)氏(カリフォルニア ソノマ)
私市(きさいち)友宏氏は、大阪府出身です。大学卒業後は家業の酒販店を営んでいましたがワイン造りを志し、1991年に奥さんのレベッカさんと娘さんと一緒にフランスにワイン修行に行きました。ブルゴーニュの「アルマン・ルソー」で一年間修業しますが、フランスは法律が厳しいため自分で土地を切り開いてワイナリーを作ることは難しいと考えました。その後カリフォルニアに移住し、数社での勤務を経て、1999年にマボロシ・ヴィンヤードを設立しました。
日本の女性ソムリエが選ぶ「SAKURA AWARD 2015」ではピノノワールの「デローチ(DE LOACH)」がダイヤモンドトロフィーを受賞するなど、近年実力派ワインとして注目されています。「SAKURA AWARD」受賞ワインはリーズナブルで口当たりの良い美味しいワインが多いので、見つけたら試してみてください。